ケーススタディ

介護事業の労務管理(ケース No.5)

当事業所で1ヵ月前にパートを雇いましたが、ディサービスでお年寄りとの会話の時も元気がなく、疲れた顔で接している場面が見受けられます。噂ではどうも他の場所でも仕事しているみたいで、疲れた顔でのサービスは困るし、採用の時は他での仕事はしていないと言っていたのに、困ってます。

了解。では、関係する事柄を順にご説明いたします。

  1. その1:二重(掛け持ち)就労のポイント
  2. その2:就業規則上のポイント
  3. その3:実務上の対策ポイント

その1:二重(掛け持ち)就労のポイント

労働基準法は、労働者が一日のうち2以上の異なる事業所で勤務している場合、一日の労働時間は通算されることになります。(労基法38条) よって、例えば一つ目の事業所で実労働時間7時間勤務した後、二つ目で3時間勤務した場合、一日の労働時間は通算すると10時間になります。

10時間労働は、1日の法定労働時間である8時間を2時間超過していることとなります。
8時間を超える部分は、時間外労働に該当しますので、この2時間分は時間外労働となり割増賃金の対象となります。

割増賃金の支払い義務がある事業主は、どっち?
  • 法定労働時間を超えて働かせる場合、事業所は36協定の締結および届け出、割増賃金の負担が必要です。
  • この場合、両事業所のどちらが義務を負わなければならないのかは、正社員・パート等という身分に関係なく、後で労働契約を締結した事業所になります。(注)
  • 後で労働契約する事業所は、労働者が他の事業所で働いているのか否かを確認する義務があり、他の事業所で働いていることを知ったうえで労働契約を締結したと考えられるからです。

ですから、二つ目の事業所では、1時間は、通常の時給を払えば問題ありませんが、2時間の賃金には割増を加算して支払わなければなりません。

※今回採用のときは、口頭で確認されましたね。その時点では他での仕事はしていなかったのかもしれませんが、一度ゆっくりと面談をして事実確認しましょう。

(注) ただし、例えば先に”A事業所”で4時間、その後”B事業所”で4時間仕事している人の場合、A事業所長がこの後にB事業所で仕事することを知っていて1時間仕事の延長をした場合は、A事業所で時間外労働の手続きをする必要があります。必ずしも1日のうちの後の時刻の事業所でもなく、また後で雇入れた事業所でもないということになります。

その2:就業規則上のポイント

例えば、兼業禁止について次のような判例があります。

「労働者は、雇用契約の締結によって使用者に対し1日のうち限られた勤務時間のみ労務提供の義務を負担し、その義務の履行過程においてのみ使用者の支配に服する」

が、「雇用契約及びこれに基づく労務の提供を離れて、使用者の一般的な支配に服するものではない」

「労働者は勤務時間外を事業場の外で自由に利用することができ、他の会社に勤務するために余暇を利用することも一般の雇用契約においては、原則として許されなければならない」

ただし、「労働者が兼業することによって使用者の企業機密の保持を全うし得なくなるなど経営秩序を乱したり、あるいは、労働者の使用者に対する労務の提供が不能若しくは不完全になるような場合もありうる」

そこで、「このような場合にのみ例外として、就業規則に兼業禁止規定を置くことが是認されるものと解するのが相当である」
(東京地裁 S49)

この判例は、正規社員に対する兼業禁止規定の是非を争った裁判ですが、勤務時間外の活動は原則自由であると結論づけ、一部例外として

  1. 企業機密の保持
  2. 労務提供の不完全

を理由とする場合のみ兼業禁止規定は是認されるとしています。

就業規則での兼業禁止規定は社員の場合は普通ですが、パート等の就業規則ではあまりこの規定はないように思われますが、いかかですか。

パートさん等の就業規則の兼業禁止規定は

労働者は労働契約に基づいて定められた時間就労しているので、その間は使用者の指揮命令下に労働する義務はあるが、終業後まで指揮命令を受ける必要はなく権利の濫用という説もあります。また、兼業しなかった場合に生活が成り立たないというケースも考えられ、「パートは職務責任も軽く、勤務時間も短い」等を思慮するとこの規定化には無理があるという意見もあります。

しかし、労務提供不完全では、困ります。

職務内容を十分精査し、分類整理し直した上で、 (パート等の職務内容も明確化した上で、)兼業禁止の規定化を検討されても良いのではと思います。

やはり、介護事業は、感情の労働(+肉体、頭脳労働)ですから、笑顔でお年寄りと接することが一番大切なことですよね。

その3:実務上の対策ポイント

  • 雇用保険の場合は、主として生計を維持している賃金を受ける事業所のみで、雇用保険に入ります。
  • 労災保険ですと、複数社でそれぞれ支払った賃金に応じて保険料を負担する制度があります。
  • 健康保険、厚生年金にも通算制度があります。
    (それぞれの報酬によって算定された報酬月額相当額の合計額がその者の報酬月額とする。
    <事業所毎の標準報酬月額の合計額ではない。>

また、雇入れの際に他の事業所での就労状況を正確に申告しなかった結果、時間外割増賃金支払いの問題が起こった場合は、虚偽申告があったということで、就業規則の定めにより解雇することも可能と考えられます。

採用時の掛け持ち就労確認をしっかり行いましょう。

ちなみに、厚労省発表のパート有効求人倍率(季節調整値)をみると、2011.12月期0.94と上昇。求職者1人あたりの求人件数が増えています。2010年の非正規社員の割合も、2002年以降最高水準の34.4%、有能な人材確保が難しい状況です。

仕事の棚卸しとパート等含めた研修教育の再検討が必要です。

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